「休眠口座」活用の前に銀行は実態の情報開示を

古くて新しい「休眠口座」を国が召し上げるという話。未曾有の財政赤字で財源もなく、また、ネコババしてると煽れば叩きやすい銀行からうまーくお金を引き出そうという魂胆がみえみえなわけですが、年間850億円程発生(うち約350億円が払い戻し)すると聞けば多少強引でも実現する可能性はあるのではと思っています。

しかし、その前に銀行にはしっかりと情報を開示する義務があるのでないでしょうか。性質は異なりますが、損害保険会社や生命保険会社の保険金不払い問題のように契約者や預金者から預かったお金に対する受動的な対応という意味で同じ原因が潜んでいるような気がしてなりません。断片的に出てくる情報を総合すると預金返還について相応の対応はしているのではないかと想像できるのですが、如何せん情報が少なすぎます。

おカネを上手につかってくださる国に召し上げられる前に預金者への説明義務は果たすべきではないでしょうか。

休眠口座とは

原則10年間取引がない口座で預金者との連絡も取れない場合には銀行の収益に計上する、と言われていますが、実際に銀行・信託や信金信組、農協などの預金業務を行う免許業者がどのように扱っているのかはハッキリしません。

法律上は商事債権として最後の取引から5年経過で時効が成立するような気がしますが、預金者が現れ「返せ」と言われて、行員が「時効が成立しております」なんてことを言おうものなら金融サービス利用相談室や国民生活センターに駆け込まれ、とんでもないことになるわけですからたとえ何年経過していようが慣例的に返金に応じているわけです。

不思議なことに銀行のホームページで「休眠口座」「時効」などのキーワードで検索してもまったくヒットしません(3大メガバンク)。一方「りそな銀行」はその取り扱いを明確にしています。特殊事情(国有化)が原因ではないかと思います。

普通預金口座の休眠口座管理手数料について|口座を開きたい|りそな銀行

ただ残高1万円未満等の一定条件のもと2年超取引がない場合に「休眠口座」となり口座管理手数料(年1,200円)がかかり、控除できなくなったら自動解約になるようです。なので実質最短3年でしょうか。でも商法上の消滅時効は5年のような気がしますが・・・

休眠口座の収益計上について

預金者保護の観点があるため時効成立後も返金には応じるものの、法律上は時効が成立していれば企業会計上は負債である預金を減少させ収益(雑収入?)計上が必要のはずです。税務上は計上可能な利益があるのに、留保していれば脱税行為とみなされる恐れもあるわけですし。その際、払い戻しに備えて引当金を積立(有税)てているのかなぁとか。銀行の立場としてはネコババというよりも、計上せざるを得ない方が強いのではと想像します。

金額として毎年850億円とすると、日本の銀行は3大銀行グループの他、地方銀行、第二地方銀行、信用金庫だけで約350行庫。(あり得ませんが)単純平均すると1金融機関あたり2.5億円(うち1億円を払戻し)です。預金量に比例すると仮定すると、一部の大銀行を除けば、ほとんどの地方銀行・信金などが計上する金額は決算に与えるのは誤差の範囲程度ではないかと思われます。その他、ゆうちょ銀行、農協などもあるわけですから。その程度の金額で、銀行等の決算や財務の健全性について、休眠口座の収益計上に頼っているような銀行があるとしたら、よほど経営が傾いているとしか考えられません。

預金者への対応はどうなっている?

休眠口座に関しては金融機関ごとに対応が異なるのでしょうけれど、経過年数と電話や通知などどのようなアクションをとっているのか、残高によって対応は異なるのかなど、ほとんど情報が開示されていません。

たとえば、銀行があえて預金者に連絡をとらず休眠口座として収益計上していれば「ネコババ」と言われても仕方ないでしょう。「あぁ、そこまで調べてくれても預金者に連絡がとれないなら仕方ない」という納得感の醸成が必要です。しっかりと情報開示してもらいたい。

ただ、これが行き過ぎると調査費用やシステム対応等で経営を圧迫しかねず、取引ある預金者との公平性でバランスを欠くかもしれません。経営的な観点では「お金にならない休眠口座対応するなら取引ある利用者に資源投下」するだろうし。

休眠口座の資金は活用できるのか

多分、実態把握ですらかなりのコスト負担になるような気がします。そもそも銀行によって休眠口座の定義が異なるだろうし、既にマスターファイルから口座情報が削除され、データが磁気テープやマイクロフィルムに保管されている可能性もあります。それを全国銀行協会がまとめることを想定すると基準の統一から各金融機関の作業、結果集計に要する時間は相応になると予想できます。

そうなると、先に説明したとおり、そのヒト、モノ、カネを投じて取り組むべきなのか。コストパフォーマンスをしっかりと分析する必要があるでしょう。必要なことではありますが、そのせいで通常の預金者に帯するサービスの質が低下したり、利息が減っては本末転倒なわけです。

毎年1300万口座が休眠口座になるという推計もあり、りそな銀行のケースで考えると1件あたり1200円の年間維持コストとすると約156億円。さらに人件費は15億円という調査もあるようですから、実際に活用できるお金というのは単純計算しても半分もないわけです。

また、休眠口座の活用はNPOやベンチャーを支援という名目のようですが、それであれば特に地域金融機関は投資先はその地域に限定されるべきですよね。メガバンク以外は基本的にその地域住民が預金しているわけですから。地産地消です。地域金融機関は特に「地域貢献」を経営方針に掲げているわけですから銀行自らが休眠口座を「寄付ファンド」として立ち上げるのもよいかもしれません。

銀行は情報開示を

預金者も勝手なもので、日本経済新聞が本年2月下旬に実施したアンケート調査によると「休眠口座の活用に賛成」が54%、でも「相続で自分が気づいていない口座があったら」だと34%まで減少。他人のカネならいいけど自分のカネは出したくない。当然の結果ですけど。だからこそ納得感が必要なわけです。金融機関の皆さん、是非、自主的に情報開示してください。