米著作権局は2010年7月26日(米国東部時間)にデジタルミレニアム著作権法(DMCA)の見直しを発表し、合法利用の範囲を拡大した。発表された全6項目にはiPhoneという固有名詞こそないものの、iPhoneのJailBreakやUnlock行為に該当する項目があるという。 [Revised on August 1, 2010]発表された全6項目は米著作権局が米国議会図書館に宛てた”Recommendation”でその詳細が公開されている。全262ページのうちJailBreakとキャリアUnlockについてはApple社のiPhoneが名指しされ、およそ100ページ(P77〜P174)も割かれていた。
JailBreakとキャリアUnlockが合法と認められたが、JBerはこれをどう受け止めればよいのだろうか。米国権威当局のお墨付きを得たと希望の光と喜ぶべきか、それともこれが終わりのはじまりと将来を憂うべきなのか。
U.S. Copyright Office – Anticircumvention Rulemaking
対象項目の抜粋
(2) Computer programs that enable wireless telephone handsets to execute software applications, where circumvention is accomplished for the sole purpose of enabling interoperability of such applications, when they have been lawfully obtained, with computer programs on the telephone handset.
(3) Computer programs, in the form of firmware or software, that enable used wireless telephone handsets to connect to a wireless telecommunications network, when circumvention is initiated by the owner of the copy of the computer program solely in order to connect to a wireless telecommunications network and access to the network is authorized by the operator of the network.
そもそも今回の決定は、ある一定条件下で行われるJailBreakについてDMCA適用が免除されるに過ぎない。裏を返せばこの条件を満たさないJailBreakは合法ではないということだ。
アップルはどうするのか?これを機に対策を緩めたりすることはあり得ないだろうし、JailBreakされたiPhoneを保証対象に含めることも絶対にないだろう。むしろ初期不良の交換や返品、バッテリ交換プログラムなどの各種サポートについてJailBreakされたiPhoneはこれまで以上に排除に向けた取り組みを強化するかもしれない。友達紹介キャンペーンならぬJailBreakユーザー密告キャンペーン、AppleIDのアカウントロックなど。。。
今後、メディアにより「JailBreakが合法化」とセンセーショナルに伝えられることで、リスクを理解しないままJailBreakに至るユーザは増えることは想像に難くない。合法であるという(誤った)安心感とともに間もなくリリースされるJailBreakツールの手軽さからコモディティ化は急速に進むはずであり、JailBreakするユーザの急増は疑いようがない。その結果、トラブルに陥り、リカバリーの術を知らないユーザは、文鎮化させたiPhoneを片手に「もうしませんから」と泣き叫ぶことになるだろうが、時すでに遅しである。アップルはもちろんソフトバンクもJailBreakされたiPhoneをサポートなどしない。違法行為ではないが利用規約を破るような不心得者まで救済してしまってはルールを順守しているユーザーとの公平性が保たれないし、当初アップルが想定した利用範囲をはるかに超えてしまうため実質的にサポート・保証が不可能だからだ。
では今回の措置によって何か変わるのか?JailBreakがグレーとか違法ではないかと感じていたJBerにとっては合法という安心感が得られるという意味では評価できるかもしれないが、実態は何も変わらないのではないだろうか。いや、むしろアップルとハッカー達のチキンレースはこれまでどおり続くが、その傍らにはカラ騒ぎの結果、何のサポートも受けられず、保証もされない「自己責任」を突きつけられて耐え切れなくなった一般ユーザーが死屍累々と横たわるという不幸な結末を迎える可能性もある。
ともすれば極めてマイノリティな一部の主張を認めたことで、AppStore以外のアプリの流通、セキュリティの脆弱化、物理的損傷等を惹き起こしかねないJailBreakの拡散が助長されることでiPhoneのエコシステム全体を破壊させかねないのではないかと思ったりするのである。
以上、説得力のないJBerの戯言。
— Updated on July 28, 2010 —
やはりというべきか、アップル広報からJailBreakした場合は「製品保証を無効にする」ことを改めて強調したようだ。
Apple、守勢にまわる—「合法的だろうと脱獄したらやはり製品保証は打ち切り」
JailBreakが合法であるにもかかわらず利用規約等で保証対象外とした場合、訴えればどうなるか?経済的損失は小額であるため訴訟コストを考えると訴訟メリットが薄い。もっとも、訴訟理由がおカネではなくもっと尊い何かがあれば別だが。仮に裁判所で争ったところで、今回のDMCA適用除外は「JailBreakが一定の条件で合法」というだけで、メーカーに保証義務を課すものではないし、最強のアップル社リーガルチームがガチガチにガードを固めて来ることは間違いない。
また、この記事が言うように「守勢にまわる」「『iPhoneの動作が不安定になる』というくだりは事実ではない」というのは誤っている。この記者はJailBreakを理解していないのだろう。JBerであれば周知だろうが、そこそこの知識がないとJailBreakしたiPhoneを継続的に安定運用させるのは大変な労力を要する。だからこそ、アップルは「JailBreakは最良のiPhone体験を損なう」と主張しているのだ。ごく一部のJBerにとって快適(安定や信頼性があるという意味ではない)な環境が他の全ユーザにも同じように快適というわけではない(むしろ様々なトラブルに遭遇する覚悟が必要である)ことを認識する必要がある。
これからのメディアの捉え方に注目である。JailBreakの効果・メリットだけが大きく扱われ、そのリスクが同等、あるいはそれ以上に説明されるべきだが、それはなされない(知らないから説明できない)可能性が高い。これこそが悲劇の始まりと思えてならない。自由の代償とも言うべきか。